最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)1243号 判決 1951年8月09日
本籍並びに住居
静岡県浜名郡和田村半場一二番地の一
無職
佐野義雄
大正一一年五月一八日生
右の者に対する殺人未遂、銃砲等所持禁止令違反被告事件について昭和二五年二月二三日東京高等裁判所の言渡した判決に対し、原審弁護人大石力から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大石力の上告趣意について。
本件第一審判決は、弁護人の正当防衛の主張を排斥して、「浪崎重一が拳銃を携えていたことは認め得るが、同人が拳銃を被告人の心臓部に突き付けたということは之を認め難く、従つて未だ急迫不正の侵害行為があつたとは謂い得ない」と判示し、原判決もこの認定を是認したのである。右のような認定は第一審判決挙示の証拠を綜合すれば優に肯認できるところであつて、その間経験則違背も矛盾もなく、「被害者が拳銃を所持していたことを認め」たからとて、それは必ずしも所論のように「その時被害者は被告人に向つて拳銃を差向けて居た事実を認めたに因るものと解しなければならない」という理由はない。このように原判決が急迫不正の侵害の事実を認めない以上、正当防衛の主張を排斥したのは当然である。論旨は原判決の認定しない事実を前提として憲法違反を主張するものであるから、採用することができない。
なお記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
よつて刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見を以て、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)